CLARITY法案で恩恵を受ける仮想通貨・暗号資産は?

Author logo
Patrick Dike-Ndulue
• • 更新
Post image

CLARITY法案は、米上院で最大のハードルをついに突破しました。アメリカが包括的な仮想通貨規制を実現する最大のチャンスが生まれましたが、まだ成立には至っていません。


2026年5月14日、上院銀行委員会は賛成15・反対9でDigital Asset Market Clarity Act(CLARITY法案)を本会議に送ることを決定しました。4カ月の停滞を経て、業界関係者が諦めかけていた中での土壇場の可決です。委員長Tim Scottが水面下で動き、アリゾナ州のRuben Gallego議員とメリーランド州のAngela Alsobrooks議員という2人の民主党議員を取り込むことで、超党派の賛成多数を確保しました。

本記事では、CLARITY法案が米国の暗号資産規制にどのような変化をもたらすのか、その重要性を解説します。


ただし、法案成立までの道のりはまだ長いです。本会議で60票(Gallego・Alsobrooks両氏以外にさらに7人以上の民主党票)が必要であり、上院農業委員会の並行法案との統合、下院との調整を経て、最終的にトランプ大統領の署名が必要です。公務員による暗号資産利益の制限(倫理規定)は未解決で、可決の最大の変数となっています。しかし、1月の審議が頓挫して以来、初めてCLARITY法案に現実的な勢いが生まれました。

CLARITY法案とは?

Digital Asset Market Clarity Act of 2025(通称「Anti-CBDC Surveillance State Act」)は、米国の暗号資産業界が長年直面してきた「誰が何を規制するのか?」という根本的な疑問に答えるための278ページに及ぶ包括的な法案です。

これまでSEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)が暗号資産の管轄を巡って争ってきました。SECはほぼ全てを証券とみなし、CFTCは多くのトークンを商品と主張。明確なルールがないまま、企業は訴訟リスクに晒されてきました。CLARITY法案は、次のような仕組みでこの問題を解決しようとしています:

  1. SEC(証券)とCFTC(商品)の明確な管轄区分を定める
  2. 「デジタル資産」「デジタル商品」「ブロックチェーン」「分散型ガバナンスシステム」など主要用語の定義
  3. 取引所・ブローカー・カストディアンが合法的に運営できるコンプライアンスの道筋を整備
  4. ステーブルコインのルールとその利用方法を明確化
  5. 暗号資産ビジネスに明確なコンプライアンスの指針を提供
     

CLARITY法案の経緯

下院は2025年7月、H.R. 3633を賛成294・反対134という圧倒的多数で可決し、本格的な推進力が生まれました。その後、法案は上院に送られましたが、状況は複雑化します。

上院農業委員会はCFTCにスポット暗号資産市場の権限を与えることに注力し、銀行委員会は用語定義やステーブルコイン制度に取り組みました。2つの委員会、2つの優先事項、対立の火種がくすぶりました。

銀行委員会は2026年1月15日午前10時(米東部時間)に審議・修正案提出・採決のための会合を予定していましたが、直前で頓挫しました。

法案のコアフレームワーク

CLARITY法案は、デジタル資産の機能的ライフサイクルに応じて管轄を割り当てる「レーン制」を導入しようとしました。仕組みは以下の通りです:

デジタル資産証券(SECの管轄):

  • 「補助資産」とは、発行者や「関連者」の事業努力に価値が依存するネットワークトークンと定義
  • 誰かが積極的にトークンを開発・宣伝していれば、証券扱いでスタート
  • SECは上場株式並みの情報開示義務を課す

デジタル商品(CFTCの管轄):

  • トークンが「デジタル商品」に該当すれば、CFTCがスポット市場を含む中心的な規制権限を持つ(これまでCFTCには明確な権限がなかった)
  • ネットワークが成熟し、真に分散化されれば、証券から商品へ「昇格」できる仕組み

分散型金融(DeFi):

  • 第309条で「分散型金融活動の除外」
  • 第109条で「特定の非支配的ブロックチェーン開発者の扱い」を規定
  • ユーザー資産を管理しないDeFi開発者を保護する条項

なぜCLARITY法案が重要なのか?

業界関係者は、この法案がなければ米国は2024年12月にMiCA規制を完全施行した欧州連合などに後れを取ると警告しています。

現状では:

  • 企業はSECに訴えられるまで違法かどうか分からない
  • 機関投資家は規制不透明さから多くの暗号資産プロジェクトに手を出さない
  • 暗号資産企業はドバイ、シンガポール、スイスなど規制が緩やかな国へ流出
  • 米国は経済機会とグローバル基準策定力の両方を失いつつある

CLARITY法案は、これら全てを解決し、米国を「世界の仮想通貨ハブ」として、イノベーションと強力な投資家保護、厳格な法執行を両立させることを目指していました。

CLARITY法案が遅れた理由

審議採決の48時間前、Coinbase CEOのBrian ArmstrongはXで「現状のままでは支持できない」と投稿し、「現状よりも悪い」とまで表現しました。

主な異議点は以下の通りです:

  • トークン化証券の事実上の禁止
  • 新たなDeFi規制で政府が「金融記録への無制限アクセス」を持ち、ユーザープライバシーが著しく損なわれる
  • CFTCからSECへの権限シフト——CFTCは暗号資産に寛容とされており、SECの権限強化は大きな問題
  • ステーブルコイン報酬の廃止——銀行が競合を排除し、米国消費者に不利益をもたらすと指摘


これらの論点を詳しく見ていきます。

1. ステーブルコイン報酬

GENIUS法案(ステーブルコインの枠組みを新設)が可決された後、発行者は直接利息を支払えない一方で、プラットフォームは報酬を提供できる抜け穴が生まれました。Coinbaseは2025年第3四半期に3億5500万ドルのステーブルコイン関連収益を報告し、USDC保有者には最大5%の利回りを提供しています。

銀行ロビー団体は、これが銀行預金から資金が流出し米金融システムを脅かすと主張。従来の銀行は普通預金の金利がほぼゼロですが、ステーブルコインは3.5〜5%の利回りを実現しており、大きな競争上の不利となっています。CLARITY法案は「保有のみの受動的利回り」を禁止し、「決済・ステーキング・流動性提供などの活動型報酬」は認めるという妥協案を提示しました。

しかし銀行側は抜け穴が残ると反発、暗号資産企業側はビジネスモデルが成り立たないと批判しました。

2. トークン化証券の禁止

Brian Armstrongは、法案がトークン化株式や債券など従来型証券のブロックチェーン取引を事実上禁止する点を問題視しました。これにより、株式のブロックチェーン取引がほぼ不可能となります。

トークン化証券は数兆ドル規模の潜在市場であり、不動産やアート、債券、株式の一部を24時間365日即時決済で取引できる未来が閉ざされかねません。法案はこの分野の芽を摘む恐れがあります。

Securitizeのように既に運営ライセンスを持つ企業もあり、Citron Researchは「Coinbaseが競合Securitizeを警戒して支持を撤回した」と推測していますが、Armstrong氏は「全ての企業に打撃」と否定しています。

3. 倫理規定と利益相反

超党派の上院議員グループは、公務員による暗号資産ビジネスからの利益取得を防ぐ規定を求め、Elizabeth Warren議員は「レッドライン(絶対譲れない一線)」と表現しました。

これは明らかにトランプ元大統領を念頭に置いたものです。トランプ一族は暗号資産事業との結びつきが深く、ミームコインやNFTをローンチし、World Liberty Financial(WLFI)というデジタル資産プラットフォームも銀行免許を申請中です。

民主党は公務員が職権で暗号資産から私益を得ることを防ぎたい一方、共和党は「倫理規定は市場構造法案に不要」と主張しています。

委員会の採決は大きな一歩でしたが、ゴールではありません。


今後の流れ

銀行委員会の法案は、既に上院農業委員会を通過したDigital Commodity Intermediaries Actと統合されます。統合後は本会議で60票が必要となり、Gallego・Alsobrooks両氏以外に少なくとも7人の民主党議員の賛同が不可欠です。

倫理規定が最大の焦点です。Gallego・Alsobrooks両氏は「委員会での賛成は本会議での賛成を保証しない」と明言し、強制力ある倫理基準が条件としています。 

ホワイトハウスは大統領個人を標的にした条項は認めないとしていますが、顧問のPatrick Witt氏は「大統領から新入インターンまで全員に適用されるルール」と説明。Digital ChamberのCody Carbone氏は「本会議採決前に合意がまとまるだろう」と述べています。

上院で可決されても、下院(2025年7月可決)との調整とトランプ大統領の署名が必要です。

 

CLARITY法案で恩恵を受ける仮想通貨は?

CLARITY法案は特定のプロジェクト名を挙げて勝者を決めるものではありませんが、仮想通貨の性質に応じて大きな恩恵を受ける枠組みを作ります。業界側の思惑通り進めば、主に2つのルートが用意されます:

成熟ブロックチェーンルート

法案は「成熟ブロックチェーン」を「特定の個人やグループの支配下にない、関連するデジタル商品を持つブロックチェーンシステム」と定義しています。

要件としては、完全な稼働実績、単一主体が供給量または投票権の20%超を持たない真の分散化、創業者や企業による一方的なアップグレード権限の不在などが挙げられます。

この枠組みで明確な勝者:

  • Bitcoin(BTC) – コモディティとして既に認定、完全分散型、中央管理者なし
  • Ethereum(ETH) – PoS移行後、バリデーター分布と開発者分散が進み、既にコモディティ扱い

「ETF組入れ」ファストトラック

最新の上院案では、2026年1月1日時点で上場ETFの主要資産となっているネットワークトークンは「非補助資産」として即座にコモディティ扱いとなる条項が盛り込まれました。

ETF承認済みであれば「成熟ブロックチェーン」認定を経ずに自動的にコモディティとなり、XRP、SOL、LTC、HBAR、DOGE、LINKはBTC・ETHと同等の扱いを受けます。

即時恩恵を受ける銘柄:

  • XRP(Ripple) – ETF上場済み
  • Solana(SOL) – ETF上場済み
  • Litecoin(LTC) – ETF上場済み
  • Hedera(HBAR) – ETF上場済み
  • Dogecoin(DOGE) – ETF上場済み
  • Chainlink(LINK) – ETF上場済み

この枠組みは「成熟ブロックチェーン」認定プロセスを一気に飛ばせるため、2026年1月1日時点でETFがあれば即コモディティ扱いとなります。

ステーブルコインの勝者

CLARITY法案はGENIUS法案と連動し、「許可された決済用ステーブルコイン」の明確な枠組みを作ります。主な勝者は以下の通りです:

USDC(Circle) – 十分な準備資産と定期監査によりGENIUS法案上の「許可ステーブルコイン」に該当し、米国内での決済・取引・DeFi用途で広く利用可能に

DAI(MakerDAO) – Ethereum上の分散型ステーブルコインとして、Ethereumの成熟ブロックチェーン認定とDeFi除外の両方の恩恵を受ける

PYUSD(PayPal) – 大手金融機関が発行、許可ステーブルコイン資格を得る見込み

一方、TetherのUSDTは透明性や規制対応の懸念から不確実性が高まっています。

DeFiプロトコルの勝者

法案は分散型金融(DeFi)に対する保護規定も盛り込んでいます。Uniswapは十分に分散化されたネットワーク上で運営されているため、CLARITY法案のDeFi除外規定に該当し、バリデーター・リレイヤー・開発者は伝統的な金融仲介業者とみなされません。

その他の主なDeFi勝者:

  • Aave – 分散型レンディングプロトコル
  • Curve – 分散型取引所
  • Compound – レンディングプラットフォーム

これらのプロトコルは第203条により、「エンドユーザー配当(staking報酬など)」が証券の提供や販売に該当しないと明確化され、恩恵を受けます。

法案の今後

今後、いくつかのシナリオが考えられます。

最良シナリオ: 銀行・Coinbase・民主党がステーブルコイン利回りやトークン化証券規制で合意できれば、法案は復活する可能性があります。Tim Scott委員長は「中間選挙前にCLARITY法案が成立する」と述べています。

BitwiseのCIO Matt Hougan氏は、この法案を「クリプト冬のパンクスタウニーフィル(春の訪れの象徴)」と例え、「可決・成立すれば市場は過去最高値を目指すだろう」とコメントしています。

中間シナリオ: 法案が大幅に書き換えられ、論点ごとに複数の法案へ分割される可能性

最悪シナリオ: 銀行委員会で否決、または本会議で60票に届かず、2026年内成立は絶望的に。選挙イヤーのため、物議を醸す法案の通過はますます困難となります。

完全に頓挫した場合、業界は2027年の新議会で一からやり直しとなり、選挙結果次第で政治力学も変わる可能性があります。

まとめ

本質的に、CLARITY法案はアメリカ金融の未来を左右する根本的な利害対立のぶつかり合いを象徴しています。

第一の争点は、従来型銀行と暗号資産プラットフォームが「誰が預金商品を提供し、資金を集めるのか」を巡る競争であり、金融業界の進化か、既存勢力による新興競争排除かが問われます。

第二は、SECとCFTCのどちらが暗号資産の規制を担うのかという管轄争いであり、規制の厳しさや柔軟性を大きく左右します。

第三は、プライバシー擁護派と監視強化派の対立であり、デジタル経済時代に政府が市民の金融取引データへどこまでアクセスすべきかという論点です。

第四は、イノベーション推進と既存金融機関保護のせめぎ合いであり、新しい金融商品・技術を優先するか、既存の優位性を守るかの選択が迫られます。

最後に、トランプ一族の暗号資産事業への関与に象徴される倫理問題があり、規制対象業界から政治家が利益を得てよいのかという根本的な問いが投げかけられています。

これらは単なる技術論ではなく、アメリカ金融システムの「誰が権力を握るのか」を巡る本質的な政治選択です。CLARITY法案の迷走は、こうした対立を一つの法案で調整する難しさを浮き彫りにしています。

仮想通貨に有利な法整備の「チャンス」は今この瞬間です。トランプ氏は暗号資産推進派で、超党派の支持も得ており、業界にも勢いがあります。しかし中間選挙までに成立しなければ、この機会は数年失われるかもしれません。

Author logo
著者 Patrick Dike-Ndulue

Senior editor covering crypto, onchain equities, and technology.

Author logo
レビュー担当者 Patrick Dike-Ndulue

Senior editor covering crypto, onchain equities, and technology.