ブロックチェーンエクスプローラーからアドレスをコピーしてはいけない理由
ここ数か月、Tangem Walletの一部ユーザーが奇妙な現象を経験しています。TRONネットワークのエクスプローラーで、自分が実行していないUSDTの送金履歴を発見したという声が寄せられました。履歴を見ると、まるで自分自身が取引を行い、自分のウォレットに送金したかのように見えます。
詳しく調べてみると、仮想通貨が送られたとされるアドレスは、実際にはユーザーのものとは異なるものの、非常によく似た別のウォレットアドレスであることがわかります。また、USDTではなく「UDST」と呼ばれるトークンだったというケースもありました。今回は、この詐欺の仕組みや取引の発生源、そしてなぜ注意が必要なのかについて解説します。
この詐欺の本質
この手口は、フィッシング攻撃の一種です。ただし、偽メールではなく偽の取引履歴を使う点が特徴です。詐欺師は、同じウォレットに頻繁に仮想通貨を送金するユーザーを狙います。多くの人は送金履歴からアドレスをコピーするため、詐欺師が自分のアドレスを履歴に紛れ込ませれば、不注意な被害者がコピーして送金してしまう可能性があります。詐欺師のウォレットアドレスは、本物と最初の数文字が同じであることが多く、多くのユーザーが冒頭数文字しか確認しないことを利用しています。
この詐欺には2つのパターンがあります。1つ目は、偽の取引を履歴に紛れ込ませて、ユーザーのミスを待つ方法です。2つ目は、似たウォレットに複数の「本物」の取引を行い、その後ブロックチェーンエクスプローラーで「ランダム」なアドレスへの複数の取引を表示させ、ウォレットが乗っ取られたように見せかける方法です。被害者はパニックになり、「本物」の取引から自分のアドレスだと思い込んでコピーし、全資産を送金してしまうケースがあります。
エクスプローラーに取引が表示される仕組み
これはEthereum Virtual Machine(EVM)互換ネットワークの標準仕様、特に取引履歴の作成方法とブロックチェーンエクスプローラーでの表示方法に関係しています。
オンラインで資産を送金すると、イベントが生成され、ブロックチェーンエクスプローラーに表示されます。このイベントは、送金額がゼロの場合でも発生します。何も送金していないので、送信者はスマートコントラクトに同意する必要もありません。例えるなら「友人が家に来て、あなたが不在だったので『あなたから20個の“何もない”を借りました。ピーターより』とメモを残す」ようなものです。
こうした仕組みで取引が表示されることを踏まえ、攻撃者が実際に何をしているのかを見ていきましょう。
まず、攻撃者は価値がゼロの詐欺トークンを作成し、本物のトークン名に似せた名前を付けます。UDSTはその一例です:

その後、攻撃者はターゲットとなるネットワークを監視し、同じアドレスに定期的に仮想通貨を送金しているユーザーを特定します。被害者が決まると、詐欺師はターゲットのアドレスと最初と最後の文字が同じウォレットアドレスを作成します。
悪意のあるスマートコントラクトは、ユーザーのアドレスから詐欺師のウォレットへ10 UDSTを送金する取引を発生させ、「取引」が被害者のブロックチェーンエクスプローラーに表示されます。これらの送金は、ユーザーが本物のUSDTを送った直後に作成されることもあり、履歴上で隣り合って表示される場合があります。
他にも似た手口はある?
ここで紹介した攻撃は、2022年に流行したTransferFrom Zero Transfer詐欺の進化版です。詐欺師はネットワークのロジック上の「抜け穴」を悪用しましたが、手法自体は異なります。偽トークンは使わず、スマートコントラクトの自動送金に必要なTransferFrom関数を利用していました。
詐欺師は、被害者のウォレットから自分のウォレットへゼロ金額の取引を実行するだけです。その結果、取引履歴には本物のUSDTで0の送金が記録されます。今回紹介した詐欺と異なり、TransferFrom Zero Transfer詐欺はネットワーク手数料や詐欺トークン・スマートコントラクトの作成が不要な分、コストが安く済みました。ただし、ゼロ金額の取引は履歴で見分けやすいという特徴があります。それでも被害が出なかったわけではありません。例えば、Bitcoin Forumユーザーの事例では、0 BNBの取引からウォレットアドレスをコピーして10万ドルを失ったケースもあります。
他の詐欺パターン
詐欺師が必ずしも仮想通貨を自分のウォレットに送らせようとするとは限りません。複数段階の攻撃でシードフレーズを狙うケースも考えられます。まず偽の取引を大量に送りつけ、その後DEXやウォレットの開発者を装って「ハッキングが発生した」とメールを送り、被害者に資産保護のためと称してリンク先のフォームにシードフレーズを入力させる手口です。
さらに高度な手法では、DNSスプーフィングや中間者(MITM)攻撃で偽サイトに誘導し、ユーザーがパニック状態で「とにかく何かしなければ」と本物のウォレットサイトにアクセスするよう仕向けます。
安全に資産を守るには
フィッシング詐欺と同様、この種の攻撃から身を守るには、いくつかのシンプルなルールを守ることが重要です。
まず、送金時には必ず宛先アドレス全体を確認しましょう。普段から同じウォレットに送金する場合は、アドレスをパスワードマネージャーなどに保存し、毎回そこからコピーするのがおすすめです。
また、身に覚えのない出金履歴を見つけても、慌ててリンクをクリックしたりせず、まずは取引内容をよく確認してから行動しましょう。パニックは最大の敵です。
Tangem Walletをご利用の場合はご安心ください。秘密鍵はカード内に安全に保管されており(外部に共有されることはありません)、カードがなければ第三者が資産を動かすことはできません。