
トランプ新関税は暗号資産価格に悪影響か?
米国の新関税は暗号資産価格にどのような影響を与えるのでしょうか?市場のボラティリティ、インフレ、投資戦略を考察します。

2025年4月2日、米国のドナルド・トランプ大統領は「解放の日(Liberation Day)」と称して新たな関税を発表しました。全ての輸入品に対して一律10%の関税が課され、中国には34%、欧州連合(EU)には20%と、特定の国にはさらに高い税率が設定されています。
それ以前の3月27日には、外国製の自動車および自動車部品に対して25%の関税を導入すると発表され、金融市場全体、そして暗号資産市場にも大きな衝撃が広がりました。
これらの関税政策によって輸入コストが上昇し、消費者物価の上昇やインフレの長期化につながるかもしれません。また、景気後退への懸念も高まっており、予測市場では50%を超える確率でリセッションが起きると見られています。
こうした背景のもと、ビットコイン、イーサリアム、ソラナなどの暗号資産は値下がりし、投資家はより安全な資産へ資金を移す動きを見せています。今回の記事では、米国の関税が暗号資産価格に与える影響、投資家心理の変化、ビットコインが経済不安定時のヘッジ手段として果たす可能性について考察します。
関税が暗号資産価格に与えた影響
新たな関税の発表を受けて、暗号資産市場では大規模な売り(sell-off)が広がっています。2025年4月2日の発表では、全輸入品に10%、中国には34%、EUには20%という高い関税が導入されることが明らかになりました。
この発表直後、ビットコインの価格はおよそ88,000ドルから82,000ドル強まで下落しています。
他の主要な暗号資産も軒並み値下がりしています。
- イーサリアム(ETH):1,934ドル → 1,797ドル
- XRP:2.21ドル → 2.03ドル
また、暗号資産関連の株式も下落しました。たとえば、Strategy(旧MicroStrategy)は約7%下落し、Coinbase Globalは6%安、Robinhoodは9%安となりました。
このような市場の反応は、「関税によってインフレが悪化し景気後退リスクが高まることで、暗号資産市場が打撃を受ける」と予想する投資家の懸念を反映しています。
投資家心理は「リスクオフ」に
米国の新関税によってインフレと経済成長の鈍化に対する懸念が高まり、投資家の間ではリスク回避の動きが強まっています。主な要因は以下の通りです。
- 貿易戦争の懸念:新たな関税によって貿易相手国との緊張が高まり、報復措置や経済のさらなる混乱が懸念されています。
- インフレ圧力:輸入コストの上昇が消費者物価を押し上げ、購買力の低下や中央銀行による金融引き締めの継続につながる可能性があります。
- 流動性の逼迫:市場のボラティリティ(変動率)が高まる中で、投資家は高リスク資産から資金を引き揚げようとしています。
こうした投資家心理の変化が、暗号資産価格に下押し圧力を加える要因となっています。
関税の長期的な影響
貿易政策を巡る不透明感により、暗号資産市場ではボラティリティの高まりが予想されています。考えられる要因は、以下の通りです。
- 政策の不確実性:今後さらに関税が導入されるのか、あるいは追加の貿易制限が発表されるのか不透明なため、市場では慎重な姿勢が強まっています。
- 投機的な取引:ニュースへの過剰反応により価格が大きく変動することがあり、マーケットが不安定になる傾向があります。
また、関税の影響は暗号資産市場だけでなく、その他の金融市場にも波及しています。
- 株式市場:自動車メーカーや、輸入部品に依存するテック企業などの株価が下落する可能性があります。
- 為替市場:安全資産への需要から一時的にドル高になる可能性がありますが、貿易赤字が拡大すれば、ドル安に転じる可能性もあります。
- 商品市場:投資家が安定資産を求めて、金や銀などの貴金属に資金を移す動きが強まると考えられます。
関税と金融市場の歴史的な関係
関税は、これまでの歴史において金融市場や世界経済に大きな影響を与えてきました。以下に、代表的な事例を紹介します。
ースムート・ホーリー関税法(1930年)と世界大恐慌
この法律により、2万以上の品目に対して米国の輸入関税が過去最高水準まで引き上げられました。結果として世界貿易が崩壊し、米国の輸出は60%以上も減少。他国からの報復関税も重なり、大恐慌がさらに深刻化しました。ダウ平均株価は1929年のピークから1932年までにおよそ90%下落し、経済収縮の影響が色濃く表れました。
ー戦後の関税引き下げと世界経済の拡大
1947年の「関税および貿易に関する一般協定(GATT)」により、世界的に関税が引き下げられ、国際貿易が活発化しました。米国のGDPは年平均4%成長を遂げ、株式市場も長期的な上昇トレンドに入りました。
ーニクソン・ショックと保護主義(1971年)
リチャード・ニクソン大統領は、金と米ドルの兌換を停止し、ブレトン・ウッズ体制を事実上終了させました。これは金の流出を防ぎ、米国の経済主権と金融政策の柔軟性を確保するためのものでした。さらに、貿易不均衡を是正する目的で10%の輸入課徴金も導入され、インフレ抑制のために賃金と物価の統制政策も実施されました。
導入当初は金融政策の柔軟化が歓迎され、株価は上昇しました。しかし、長期的にはドル安とインフレ圧力が強まり、1970年代のスタグフレーション(高インフレと低成長)へとつながっていきます。
1973年から1974年にかけて、ダウ平均株価は40%以上も下落し、オイルショックやコストの上昇が経済を圧迫しました。また、金本位制の終了により為替市場のボラティリティも上昇します。
「米ドルと金の兌換停止」による影響は現在でも議論されており、特にビットコインのような法定通貨に対するヘッジ手段の文脈で語られることが多くなっています。
― 中国への関税とWTO加盟(2000年代)
2001年12月11日、中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、関税の引き下げと外国資本への市場開放に合意。これに伴い、米国は中国に恒久的な通常貿易関係(PNTR)を付与し、関税の引き下げを恒久的なものとしました。
その結果、米国による中国製品への平均関税は40%からおよそ4%に大幅に引き下げられ、輸入が急増しました。生産コストの低下により企業の利益が押し上げられ、S&P500は2003年から2007年の間に80%上昇。また、中国製品の価格の安さは、2000年代のアメリカにおけるインフレ抑制にも貢献しました。
しかし、2000年代後半には、中国の知的財産政策・貿易不均衡・通貨操作に対する懸念が高まります。これを受けて、米国は再び標的を絞った関税を導入しはじめ、2018年から2020年にかけての米中貿易戦争へとつながっていきました。
― トランプ政権の貿易戦争(2018~2020年)
2018年、トランプ大統領は貿易戦争を開始します。主に中国を対象としたものでしたが、欧州連合・カナダ・メキシコを含む世界各国にも影響を与えました。
米国政府は、「中国による不公正な貿易慣行や知的財産の窃盗、貿易不均衡を是正するには強硬な措置が必要である」と主張。米国は数千億ドル規模の中国製品に関税を課し、それに対して中国も即座に報復関税を導入しました。
この貿易戦争により、関税発表や報復措置、交渉の行方を受けて株式市場はたびたび混乱することになります。2018年末には、景気減速への懸念からS&P500が20%下落しましたが、2019年に連邦準備制度(FRB)が利下げに踏み切ったことで市場は回復しました。
また、2019年初頭にはビットコインが3,700ドルから6月には13,000ドル超まで上昇しました。これは、貿易戦争に伴う不透明感の高まりを背景に、暗号資産が経済的不確実性や中央銀行政策に対するヘッジ手段として注目されたためです。しかし、2019年後半に緊張が緩和されると、ビットコインは7,000ドルを下回る水準まで下落しました。
― 2025年4月2日:トランプ大統領による第二の関税攻勢
2025年4月2日、トランプ大統領は新たな関税政策「解放の日(Liberation Day)」を発表し、貿易不均衡の是正と国内製造業の強化を目的とした包括的な戦略を明らかにしました。
関税計画の詳細
2025年4月5日から、すべての輸入品に対して10%の基礎関税が課されます。さらに、以下の国々に対しては、4月9日からより高い関税が適用されます:
- 中国:追加で34%を課し、合計で54%
- 欧州連合:20%
- 日本:24%
- ベトナム:46%
米国政府は、この措置が「長年続いてきた貿易赤字の是正・製造業の国内回帰・連邦歳入の増加につながる」と主張しています。トランプ大統領はこの政策を「経済的独立の宣言」と表現しました。
この発表を受けて市場は即座に反応し、時間外取引でS&P500 ETFは2.8%下落しました。ビットコインの価格も88,000ドル近辺から82,000ドル台へと下落しています。
過去からの教訓
関税や貿易戦争は、短期的には市場の変動や経済の減速を招く傾向があります。その影響は、経済全体の状態・金融政策・各国の対応によって異なります。
一般的に、インフレ環境下では暗号資産の価格が上昇しやすく、逆に景気後退局面では売られやすい傾向があるようです。
暗号資産投資家への戦略的アドバイス
リスクを抑えつつ長期的な利益を目指すには、以下のようなアプローチが有効です。
- 市場が下落している局面では、ドルコスト平均法(DCA)を活用して暗号資産を積み立てることで、平均取得価格を引き下げることができます。
- 長期保有を前提とした場合、ビットコインやイーサリアムが依然として中核となる資産と考えられています。これらはファンダメンタルが強いうえに、普及率も高く、機関投資家からの支持も得ています。
- FRBの政策変更・国際的な貿易交渉・インフレ率の推移といったマクロ経済のトレンドにも注目することで、暗号資産市場への影響をより適切に判断することが可能です。
まとめ
米国のトランプ大統領による新たな関税措置は、暗号資産市場に大きな動揺をもたらしました。投資家が景気後退の長期化に備える中で、価格は下落傾向を示しています。今後もインフレが継続し、株式市場が苦戦するような状況下においては、ビットコインなどの暗号資産が経済的リスクへのヘッジとして期待外れとなる可能性があります。